佐藤さんは甘くないっ!

涙を拭ってくれた手が頭に移動して、優しく撫でられた。

そのまま眠りに落ちてしまいたいほどの安らぎに、自然と素直な想いが零れる。

無意識の内に敬語を使うことを避けていた。


「……仕事以外で会う時間が欲しい……なのに佐藤さんが先週さっさと帰っちゃうから…ご飯とか、行きたかったのに…」

「……あー…ちょっと用事があってな」

「………連絡は毎日取りたい……勇気出してメールしたのに、無視するし…」

「……それは俺が悪かった、だけど本当にすれ違いだ」

「……え?」


佐藤さんは気まずそうに視線を逸らしている。

わけがわからなくてその瞳を食い入るように見つめると、大きな手で視界を塞がれた。


「さ、さとう…さん…?」

「………先週は早く帰って準備をしてたんだよ」

「準備?なんの?」

「………………笑うなよ」

「……うん?」

「…………お前を家に呼ぶ準備」


……え?

その意味を汲み取るよりも早く両手に何かを握らされた。

明るくなった視界に、赤くなった佐藤さんが映る。

そしてわたしの掌には薄くて軽い証。


「……これ…カードキー……?」

「……俺の部屋の合鍵。これ作るのに申請が面倒臭くて、先週は早く帰った。…あと色々日用品を買ったりな」

「……付き合うって決めたその日に、行ったんですか?」

「……悪かったな、随分と気が早くて」


顔を赤くしてそっぽを向いた佐藤さんが可愛くて、可愛くて。

わたしは何とも言えない気持ちでカードキーを胸にぎゅっと抱いた。

そんなに嬉しかったんだ。

わたしがお試しでも付き合うって決めて、すぐに合鍵作っちゃうくらい嬉しかったんだ。
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