Caught by …
 思いきり息を吐き出して、クローゼットへと足早に向かって扉を乱暴に開ける。そこから黒のタートルネックを探しだした。

 部屋の中だとしても、鏡を見る度にこんなものを見ていたら頭がおかしくなる。素早く着替え直して、また鏡の前に立つ。すっかり隠れてしまっている跡に満足して、私はブランチの用意のためキッチンへ足を運ぶ。

 電気ケトルでお湯を沸かしながら、フライパンを熱して卵を割り入れ、そこにベーコンも入れて焼く。バゲットを食べやすいように輪切りにする。

 あらかたの作業を終えた私は、食器棚からお皿とマグカップを取り出し、正方形のカフェテーブルに置こうとして、その上にメモ用紙が置かれているのに気づいた。

「こんなの、置いたかしら…?」 

 首を傾げつつ、食器を置いて二つ折りされたメモ用紙を手に取る。何ともなしに広げて見てみると…そこには、丁寧に並んだ数字たちと『Ray』という殴り書きの文字。

「……もしかして…いいえ、もしかしなくても電話番号と、名前?」

 あまりの驚きに口を手で覆い、声にならない悲鳴。訳もなくあちこちを見渡して、再びメモ用紙の文字たちに目を落とす。

 抑えようとしても、にやけるのが止められない。

 だって、彼が私に!電話番号と名前を、わざわざ!書いた紙を置いていったのよ‼

「信じられない…!」

 テーブルに寄りかかり、メモ用紙を胸に抱える。その手には自分の鼓動が暴れているのがよく伝わって、現実なんだと教えてくれた。
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