黄昏に香る音色 2
「で…筋はどうなんですか」

志乃の質問に、

里美はタバコを取り出し、火をつけた。

タバコを吹かすと、

「才能とかじゃなくて…本当に…嬉しそうに叩くのよ。あの子は、上手くなる」

里美は確信していた。

「才能があっても…楽しめなかったら、いけないし…」

志乃は、グラスをコースターの上に置き…氷を見つめながら、呟くように言った。

「香里奈のこと?」

志乃は頷き、グラスの中の氷を転がす。

里美は、タバコの煙を吐き出した。

「あの子は…音楽が大好きだと思う。本当に。だけど…自分から、見つけたものではないし…」

「歌に苦労してない…。挫折も味わっていない」

志乃は、グラスを指で持ち上げ、呟く。

里美は、視線を奥のステージに向けた。

「生まれながらに、音楽に愛されてたから…仕方ないわ」



「歌は、人生よ。何の苦労も、苦悩もない…人生から、人の心に触れる歌は…生まれない」

志乃は、グラスの中身を飲み干した。

里美は、志乃のグラスに、新しいウィスキーをいれた。

「だけど…あの子は凄い歌手になるわ。絶対に」

そして、微笑んだ。

「なぜなら…あの子のそばには」
< 531 / 539 >

この作品をシェア

pagetop