天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「舐めるな!」

五脚の椅子が、十夜の視界をふさいだ。

しかし、十夜は二本の刃を振るい、すべて一瞬で斬り裂いた。


視界が開いた十夜は、九鬼を睨んだ。


「!?」

が、九鬼の姿がなかった。

その代わり…十夜の腰元まで繋がった机の上を、疾走する影を一瞬、目がとらえた。

十夜が反応し、その影を斬るより速く、

その影は、十夜の鳩尾に激突した。

影は九鬼だった。

九鬼の蹴りが、十夜をふき飛ばしたのだ。


「な!」

驚いた十夜がまたふらつくと、九鬼は上半身を起こし、

彼女の懐に飛び込んだ。

そして、十夜のすぐ前の机の上で中腰になると、両肘を突きだした。

そして、十夜の刃の付け根を押し戻すと、斬られることを防いだ。

関節を押さえられた為に、十夜の刃を振るうことができない。

「まだだ!」

十夜は顔をしかめながらも、何とか痛み堪え、腕を動かし、押さえられているポイントをずらそうとした。


「ハッ!」

気合いとともに、九鬼は飛び膝蹴りを、十夜の顎に 叩き込み、

さらに身を入れると、タックルのように肩をぶつけた。

ふっ飛んで、後ろにふらついた十夜は、両手を広げる形になってしまった。

九鬼は、板を張った床に着地すると同時に、正拳突きを繰り出すように、

まっすぐに足を突きだした。

丸太をぶつけられたような衝撃を受け、

空中を飛んでいくように、十夜の体が浮かび…そのまま扉にぶつかった。


そして、扉を突き破ると、十夜は背中から響子の血溜まりの上に、倒れた。


「ば、馬鹿な…」

十夜はまったく自分を寄せ付けない九鬼の強さに、驚愕した。

背中と腹や鳩尾の痛みだけではなく、

両手の刃の為、十夜はすぐに立ち上がることはできなかった。


何とか顔を上げ、九鬼を探すと、

目の前にはいなかった。

「どこだ!」

叫んだ十夜の耳に、廊下のコンクリートの床を歩く音が聞こえた。

十夜は目を見開き、音がする方を見ると、

変身を解いた九鬼が、歩いていく姿が映った。
< 1,422 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop