ノラ猫
 
「……べつに。何もない」


この部屋に一日閉じ込められて、どうもこうもしない。

ただ時間を過ぎるのを待つだけ。
外の世界がどうなっているのかも知らない。


「相変わらず、ニコリとしないのな」
「……」


笑えるわけない。

この家にいれば、笑顔なんて必要ないんだから。


勝手にベッドに腰掛けてくるにいさんに、目もくれず俯き続けていた。


「なあ、知ってる?」


それでもなお、平然とした顔で言葉を続けるにいさん。
次の言葉も無視しようと決めていたけど、それは無視なんて出来ない言葉で……



「横川智紀、倒れたって」

「え……?」



衝撃な事実に、ずっと俯いていた顔を上げた。


「ようやく目を合わせた」


人が驚いているというのに、相手は面白そうに笑っている。

悔しいけど、その事実を聞くのには目の前の相手しかいない。


「どういう、こと?」
「分かるでしょ。アイツが倒れる原因なんて」
「……」


それを言われて、再び視線を落とした。
 
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