重なり合う、ふたつの傷


私、こういう時に『きゃー』とか叫べないんだ。

声が出なくなる。

胸に煙草の火を押し当てられた瞬間も叫べなかった。


そうだ!! 零士に電話。


掴まれた腕とは逆の手で、バッグの中を探り、ケータイを出した。


「もしかして零士に助け求めるつもり? 零士がパーティ抜け出してここへ来たら、芸能界干されるよ」


私が躊躇した隙にケータイが叩き落とされた。

更に強く引っ張られる腕。

引きちぎれそう。


「やめてっ、離して」


必死になってそう言った瞬間、お兄さんの左頬が殴られた。


「梨織!! なにやってんだよ」


『はっ』として見ると、そこにはジャージ姿の天野くんがいた。


「……蒼太くん」


「逃げろ!!」


天野くんはケータイを拾い、私の手を取ると走り出した。


「てめー、このやろー!!」


威圧感のある大きな声。

唇から血を滲ませながら追いかけてくるのが、振り返らなくても殺気でわかった。





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