重なり合う、ふたつの傷
中学に入って、お母さんが急にパートを始めた。
ファミレスのパートだ。
それからお母さんは私に煙草の火を押しつけなくなった。どうやら、煙草もやめたらしい。
それはファミレスの店長のおかげだろうか。
だって、病院の禁煙外来に行っても煙草をやめられなかった姿を目の当たりにしていたから、すぐには信じられなかった。
まあ誰のおかげだろうと、私の身が守られるようになったのだから、それでいい。
ファミレスの店長との事を知って、お父さんがかわいそうになった。
お父さんはお母さんのそういう事を知らずに愛しているのだから。
そう思っていたけど、お父さんにもあの女がいた。
かわいそうなのはただ一人、この私だけだろう。
夢とか希望とか、そういう幻のような物質は、何度日が昇り、何度日が沈んでも私には無縁。
掴もうとするとこの手の隙間から砂のようにサラサラと落ちていった。
隙間という隙間を塞いでしまいたかった。この目も耳も口も。
それができないから、狭いベッドの中でうずくまり、ただ逃避するだけ。
プールの授業は体調が悪いと言って、見学ばかりしていたし、修学旅行ではお風呂に入らなかった。
お父さんを見かけて後を追った時、「頭痛がする」と言っていたから、自然な流れで入らずにすんだ。
この傷の事を知っているのは、私とお母さんだけ。
きっと神様だって知らない。知っていたら何故助けてくれなかったのか聞いてみたい。神様に。
天野くんとキスをしたって事は、この先もきっとあると思う。
その『時』がくるのが怖い。だって汚いんだもん。今でも残っている傷跡が。
胸が大きくなるにつれ、どんどん汚くなっていった。膨張するみたいに。
時々、そのひとつひとつが鬼の顔のように見えてくる。
その恐怖感は例えようがない。