じゃあなんでキスしたんですか?

 
月一回の社内報の発行に加えて、わたしは少しずつほかの仕事にも携わるようになっていた。
 
関連記事のスクラップだとか、ネット情報のチェックだとか、先輩を補佐する仕事が大半だけれど、仕事のリズムをつかむうちにどんどん楽しくなっていっていた。



 *

「あたしこのままランチ行くわ。あんたもたまに一緒に行く?」
 
エレベーターホールの時計を見上げて、大橋さんが思いついたように言う。
 
ミーティングを終え、大橋さんと一緒にインテリア雑誌の記者をエレベーターまで見送ると、昼休憩の五分前だった。
 
珍しいお誘いだから是非とも行きたいところだけど、今日のわたしには避けられないミッションがある。

「すみません、ものすごく行きたいんですけど、今日はわたし、お弁当持ってきてて」

「あら、そう」

「ごめんなさい、また誘ってください」

「いやよ」 

 高飛車な猫みたいにつんと顔を上げて、のろのろと上がってきたエレベーターに乗り込んでいく。

「え、お、大橋さ」
 
振り返ってボタンを押す彼女の口元には、笑みがあった。うろたえるわたしの反応を見て楽しんでいる、女王様の微笑みだ。
 
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