じゃあなんでキスしたんですか?
月一回の社内報の発行に加えて、わたしは少しずつほかの仕事にも携わるようになっていた。
関連記事のスクラップだとか、ネット情報のチェックだとか、先輩を補佐する仕事が大半だけれど、仕事のリズムをつかむうちにどんどん楽しくなっていっていた。
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「あたしこのままランチ行くわ。あんたもたまに一緒に行く?」
エレベーターホールの時計を見上げて、大橋さんが思いついたように言う。
ミーティングを終え、大橋さんと一緒にインテリア雑誌の記者をエレベーターまで見送ると、昼休憩の五分前だった。
珍しいお誘いだから是非とも行きたいところだけど、今日のわたしには避けられないミッションがある。
「すみません、ものすごく行きたいんですけど、今日はわたし、お弁当持ってきてて」
「あら、そう」
「ごめんなさい、また誘ってください」
「いやよ」
高飛車な猫みたいにつんと顔を上げて、のろのろと上がってきたエレベーターに乗り込んでいく。
「え、お、大橋さ」
振り返ってボタンを押す彼女の口元には、笑みがあった。うろたえるわたしの反応を見て楽しんでいる、女王様の微笑みだ。