じゃあなんでキスしたんですか?


かすれた吐息がこぼれた。

「マイちゃん、ごめん……」
 
最初から、無理だと断っておけばよかったのだ。
 
学校で男の子にお弁当を渡すのとはわけが違うのだと、わたしも妹も、きちんと理解していいなかった。
わたしなんてもう社会人なのに……。
 
吸い込んだ空気が重い。
 
やさしかった風が、肩に鉛を積み上げていくみたいだ。
 
マンションでのやわらかな触れ合いが嘘だったように、冷たく、怯えてさえいるようだった森崎さんの表情が、目に焼き付いている。

「あ……ま、まあ、あっちも、いくらなんでもあんな言い方はないよなぁ。おまえの行動は一応善意からのものだったわけだし。アホ丸出しだけど」
 
慰めてくれてるのか、けなしてるのかわからないセリフだ。
 
桐谷さんの言葉にわたしは顔を上げた。

「あんな言い方って……盗み聞きしてたんですか?」

「いちいち人聞きわりいな。聞こえたんだよ」
 
弁当箱の蓋を開けながら「階段であんなでけー声出してたら嫌でも耳に入るわ」と吐き捨てる。
そんな彼の目が、ふと手元の弁当箱に注がれる。

「ん、なんだこの紙?」

「紙? 抗菌シートじゃないですか? 食中毒防止のためにってマイが買ってました」
 
自分のおかずを箸で拾いながら答えると、桐谷さんが皮肉っぽく頬を吊り上げた。

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