じゃあなんでキスしたんですか?

 
やっぱりこの人は顔がいいだけで、なんでも疑ってかかる計算高い腹黒エースなのだ。

自分がそういう性格だからこそ、他人に対しても同じように色眼鏡をかけさせようとする。
 
悔しいのにうまく言い返せないことがまた腹立たしくて、わたしは海苔とチーズが巻かれたちくわをぎりぎりと噛み砕いた。

「あいにく彼女はいない、とおっしゃってました。それにわたし、森崎さんに」
 
キス、という単語を発音しそうになって、口の中のものを飲み下した。
 
あぶない。
 
ひやりとしたものが胸の奥を通っていく。
 
となりを向くと、桐谷さんがきょとんとした顔でこちらを見ている。

「森崎さんに……その、彼女はいないし、未婚だって、聞きましたから」
 
しどろもどろに言うと、エースは不審そうな目で「ふうん」とつぶやく。
 
わたしはあわてて膝のお弁当に視線を戻した。
 
桐谷さんの目は心臓に悪い。
 
言葉の裏の意味を瞬時にとらえるうえに、まばたきもせずまっすぐ見つめてくるから、こちらの思考が全部透けて見えているんじゃないかと不安になる。

「じゃあ森崎さん、まだあの女(ひと)のこと引きずってんのかな」

「……え?」

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