じゃあなんでキスしたんですか?
ざわっと、頭上の緑が揺れる。一際強く吹いた風が、足元の木漏れ日を大きく揺らした。
強い日差しに照りつけられ、地面に踊る陰影は深い。まるで枝葉の形をした穴がいくつも穿たれているみたいだ。
「あの……ひと?」
「俺が入ったばっかの頃の話だから、もう五年前か」
箸をくわえながら桐谷さんは右の指を折る。
「森崎さん、最初は外商部にいたらしいんだよ」
桐谷さんは夏でも長袖のカッターシャツを着ている。水をかぶったみたいな汗を滴らせながらも、びしりとジャケットを羽織り、顧客先に出向くのだ。
そういう面に関しては、この人が仕事に対して矜持を持っているエースだと認めざるを得ない。しかも、わが社の優秀な人材が集まると言われている外商部でそう呼ばれているのだ。
そんな花形部署に森崎さんも在籍してたなんて、知らなかった。
「入社してすぐ外商部でしごかれて、そのあと総務部で人事に携わって、そんでいまの広報課にひとまず落ち着いたわけ」
ぽかんと口を開けてしまった。