じゃあなんでキスしたんですか?


「噂話なんて、しょせん噂話ですよ」 

「まあな。あの人、何考えてんのか全然読めねーし。お前と反対で」
 
頬をつままれそうになり、腕をあげて阻止をする。

「ちっ」と舌打ちをこぼして、桐谷さんはつまらなさそうに目をすがめた。
 
いつもだったら「触らないでください」と文句のひとつでも言っているところなのに、そんな気にさえならない。

森崎さんが、その先輩のことをいまでも好きだっていうのなら、わたしにしたあのキスはいったいなんだったの――
 
桐谷さんは食べ終えた弁当箱を脇に置き、ペットボトルのお茶をあおると上空を見上げてぼそっとつぶやいた。

「森崎さんなー酒飲ませてやりてぇな」

「え……?」
 
横目でわたしを見ると、にやりと笑う。

「あの人な、一口でもアルコール口にすると理性が吹っ飛ぶんだよ。面白ぇくらい弱えの。普段からは考えられないくらい素直になってさ」
 
思い出すのは、居酒屋のテーブルに突っ伏してしまった大きなからだだ。
 
心臓が、とくんと音を立てる。

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