じゃあなんでキスしたんですか?


「おい、大丈夫か? 熱でも――」
 
伸びてきた手を、とっさにかわした。 

「なんでも、ないですから」
 
どうにかして、声を絞り出す。
 
桐谷さんの顔を見られず、うつむいた。
 
どうして気づかなかったんだろう。
 
タクシーを降りてエントランスまで誘導したときも、玄関をくぐったところでのしかかられたときも、ベッド際でキスをされたときも。
 
からだは、こわばらなかった。
 
桐谷さんに触られると起こる、胸のなかのちいさな反発が、森崎さんに触れられたときは一度も生まれなかったのだ。



『ミヤちゃんはさぁ、好きな人いないの?』

『心が全部で好きって。そういう人』


 
頭のなかに妹の声が響く。
 
胸の高鳴りが痛かった。
 

わたし、森崎さんのこと――――



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