じゃあなんでキスしたんですか?
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ホワイトボードをまっさらな状態に戻し、電気を消して会議室を出ると、通路の途中で立ち話をしている男性の姿が目に入った。
すらりとした長身で立ち姿も美しい彼に、どうしても目が引きつけられてしまう。
森崎さんが話をしている相手は、フロア内で広報課と隣り合っている総務部の篠沢部長だ。
森崎さんとは対照的に、ぽこんとお腹がまるく突き出た小柄な体格をしていて、夏場はいつもハンドタオルを手にしている、温和なお父さん、といった感じの人だ。
その篠沢部長が、両手を地面に向けて伸ばし、ゴルフスウィングの真似をする。
「明後日なんだよ。森崎くんも久しぶりにどう?」
「いえ、折角ですが、その日は母が田舎から出てくることになってて」
「君は瀬都出身だったっけ。じゃあ週末は母孝行か」
「いえ、買い物に付き合うように言われただけなので。急ぎの用があってその日の夕方には帰るそうです」
細い通路を歩きながら、ふたりの何気ない会話が耳に入る。
思いがけず森崎さんの出身地情報を入手できたことに胸が躍った。そうか。森崎さんて瀬都出身なのか。
篠沢部長と話を終えて森崎さんがこちらに向かってくる。
すれ違う瞬間、からだの片側だけに意識が集中してしまった。まるで磁石に反応する砂鉄のように、からだ中をめぐる血液が森崎さんに引き寄せられているみたい。