じゃあなんでキスしたんですか?
もともとサポート部で事務仕事をしていた身なのだ。企画や広報に関係する経営企画部になんて、自分でも縁がないと思っていた。
だからこそ、ずっと不思議だった。
「森崎さんは、どうしてわたしの名前を挙げてくれたんでしょうか」
昨年、新人研修を終え、多くの同期たちが各地の店舗に配属されていくなかで、わたしはたまたまこの本社ビルに勤務することになった。
とはいえ、森崎さんとは部署も違えばフロアの階も違う。
わたしが彼の存在を知ったのは、広報課に異動してきてからだ。
サポート部で目立つ実績を上げたわけでもないわたしを、彼が見つけてくれた理由が見つからない。
「ああ、はは。あのね。森崎くんは前、総務部にいたんだけど」
篠沢部長が目尻に皺をよせる。
ああ、そうか、と思った。森崎さんは以前、この人の部下だったのだ。
「うちの人事は総務部が担当していることは知ってるね? 森崎くんは君の年の採用試験のとき、面接官の末席にいたんだよ」
その言葉が、わたしの質問とどうつながるのか、最初は理解ができなかった。
「面接での君の印象が、強烈に残っていたらしい」
やさしい口調に、なにも答えられない。