じゃあなんでキスしたんですか?
喜び勇んでデスクに戻り、向かい合わせの机に目を向けた。
びっくりするくらい美しい姿勢をたもったまま、森崎さんは書類に目を通している。
「森崎さん、いま少しいいですか」
わたしの声に顔を上げた彼の目は、はっとするほど鋭かった。
「なんだ」
編集会議での疑問点を確認しようとしたのだけれど、言葉が出てこない。
「い、いえ。あとででいいです。すみません」
総務部長のやさしいセリフで高揚していた心が、瞬時に冷やされる。
時間を置いて話しかけたとしても、森崎さんの目はきっとつめたい。
お弁当を渡そうとした日以来、森崎さんの態度はあきらかにおかしかった。
以前からは乏しかった表情の変化がますます消えて、ひどく冷たい声を出すようになった。
きっとほかの人間は気づかないくらいのちいさな変化だけれど、わたしにとっては恐るべき変貌だ。
まるで必要以上に近づくなと、突き放されているみたい。
自分の恋心に目覚めたあとだけに、森崎さんの態度の硬化は、とても残酷なものだった。