じゃあなんでキスしたんですか?
社内で冷たいのは、ほかの社員たちの目があるから?
だったら外で会えば違うんじゃないだろうか。
会社から出てしまえば、また以前みたいに、もっと言えば、酔っていたときみたいに甘い表情を見せてくれるんじゃないだろうか。
頭をよぎったのは総務部の篠沢さんと森崎さんの会話だった。
『その日は母が田舎から出てくることになってて』
瀬都からやってくるなら新幹線だ。
森崎さんの自宅からなら、出迎えに行くのは都心駅だろうし、夕方には帰ると言っていたから、お母さんは午前中に着く列車で来るに違いない。
時刻表を調べて、計画を立てる。
森崎さんを尾行するのだ。
そうして、お母さんを送り届けたところへ、偶然を装って声をかける。
「完璧な計画だ」
だってきっと、こうでもしない限り、森崎さんと外で会うことなんてない。
わたしはどうしても、あの笑顔をもう一度見たかった。
やさしく笑いかけてほしかった。
「何が完璧なの? あ、都心ビルだ」
猫のようにすりよってくると、マイはパソコンの画面を覗いた。
「都心ビル行くの? 買い物?」
「うん。明日、ちょっと出かけようと思って」
マイの顔がぱっと明るくなる。