じゃあなんでキスしたんですか?


「えー、それならわたしも一緒に」
 
言いかけて「あ、明日はだめだった」と思い出したように言う。

「何か用事あるの?」
 
口にしながら、心のなかで安堵する。マイに付いてこられると、目的を果たせなくなる。

「うん。友達の家に行くことになってるからぁ」
 
すねたように唇を尖らせて「都心ビルの美味しいケーキ屋。ミヤちゃんと行きたかったんだけどなぁ」とつぶやく。

なんとなく後ろ暗い気持ちになって、わたしは頬を持ち上げた。

「そうなんだ。じゃあ来週行こうよ」

「ほんと? やったぁ」
 
どんな些細なことでも素直に喜んでくれるマイは、甘え上手でやっぱり可愛い。

外でもこんな調子なら、男の子は当然放っておかないだろうなと素直に感心してしまう。
 
わたしには真似できないから、よけいにそう思うのかもしれない。

嫉妬する気持ちがないと言えば嘘になるけれど、マイナスの感情を覆い隠してしまうくらい、純粋にあこがれてしまう。
 
わたしもいつか、誰かに思う存分甘えられる日が来るのだろうか。
 
頭の中に、くもりのない笑顔を思い出せば、ほんの少しだけ慰められる気がした。

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