じゃあなんでキスしたんですか?

 
暮れていく空の色にも、窓から入り込む秋めいた風にも、なんの感動も覚えない。
 
目を閉じたらすべてが視界から消えるように、脳をとじて過去の記憶をすべて消し去りたかった。
 
玄関の音が聞こえたのは、部屋のなかがすっかり暗闇に覆われた頃だった。
 
引き戸が開けられる気配に、わたしは布団を頭のてっぺんまで引き上げる。

「もう、ミヤちゃん。なんで今日来なかったのぉ」
 
すこし怒ったような妹の声を無視した。

「ねえ、ミヤちゃん! メッセージ見たんでしょ? 電話にも出ないしさぁ」
 
無言を貫いていると、いきなり布団を剥がされた。

「ミヤちゃん!」
 
頬をふくらませて立っている妹は、さっきわたしが目撃したときと同じ格好をしていた。ひらひらと妖精めいた透け感のあるトップスが、とてもよく似合っている。
 
わたしの顔色に気づくと、マイは声のトーンを下げた。

「具合でも悪いの?」 
 
シーツに埋もれたままちいさく首を振って、わたしはゆっくりと身体を起こした。

「マイちゃん……今日は」

「そうだよ、ミヤちゃん来ないんだもん。だから森崎さんとデートになっちゃったじゃない」 
 
遮るように言うと、マイはベッドに腰を下ろした。

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