じゃあなんでキスしたんですか?

 
入ってすぐの靴箱に手をついて後ろを振り返る。桐谷さんはドアを閉めると、わたしには目もくれずにドアの表面に張りついた。

「な、なにしてるんですか?」
 
わたしの問いには答えず、一心不乱にドアスコープを覗いている。横からそっと顔を覗きこむと、その口元はにやにやと笑っていた。

「あのぅ」

「しっ」
 
こちらを見ようともせず、邪魔だというように、手振りで追い払われる。

 腑に落ちないまま細い背中を見ていると、桐谷さんはちいさく声を上げた。

「お、来た」

「え、誰?」

「ふん、呼び鈴鳴らしたら返してやるよ」

「……誰としゃべってんですか?」
 
なんだかひとりで楽しんでいる桐谷さんを、ぽかんと眺めていると、しばらくして彼は「あーあ」とつぶやいた。

「行っちゃった」

「なんだったんですか?」

「あん? こっちの話だよ」
 
こっちって、どっち。
 
桐谷さんはたまに不可解なことを言う。

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