じゃあなんでキスしたんですか?
*
住宅の塀に覆われた狭い通りに、ぽつぽつと外灯の光が浮かんでいる。
人通りのない寂しい道を精いっぱい明るく照らそうと、それぞれの外灯は力をふりしぼっているけれど、月のない夜はいっそう深く、光を吸い込んでしまう。
桐谷さんと並んで歩きながら、頭上を見上げた。
彼のマンションから見渡せた星は、今は民家の屋根に遮られて見つけることができない。
最寄駅から徒歩十五分のアパートまでたどり着いて、わたしは足を止めた。
「ふうん、ここか」
タイル張りのすこし少女っぽい外観を見上げ、桐谷さんは唇の端を持ち上げる。
「あの、ありがとうございます。ここまででいいですから」
「なに言ってんだよ。おまえひとりじゃ結局やり込められて終わりだろ」
「いえ、でも」
「いいから、ほら行けって」
ぞんざいな手つきで促され、やむを得ず階段を上りはじめる。手すりにつかまりながら、なるべくゆっくりと足を運んだ。
ステップを踏みしめるたびに気が重くなっていくけれど、後ろを塞ぐようにして彼がついてくるから、逃げだすこともできない。
向き合う覚悟もできていないまま最後の段差を上りきり、部屋の前に立つ。
その瞬間だった。