じゃあなんでキスしたんですか?

 
狭い廊下に不穏な沈黙が立ち込めた。
部屋の窓からこぼれる明かりに照らされたマイは、今にも泣きそうな顔で唇を噛んでいる。
 
これまで一度も見たことのない、傷ついた表情が、なんだか胸にくる。
 
なんでマイのほうがそんな顔をするのか、わたしにはわからない。
 
泣きたいのは、わたしのほうなのに。

「だって……取られちゃうと思って」
 
消え入りそうな声で、マイがぽつりとつぶやいた。
アパートのドアを背に、彼女は所在なげに首を垂れる。

「ミヤちゃんにはずっと、マイを見ててもらいたいんだもん」

「どういう、こと?」
 
声がかすれて、思うように喋れない。マイはうるんだ目でわたしを見つめた。

「ミヤちゃんが、誰かのものになるなんて……イヤなんだもん」
 
呼吸をするのが精いっぱいのわたしの代わりに、桐谷さんが口をはさんだ。

「だからこれまでミヤコに近づく男がいたら、食ってきた?」

「そうだよ! みんな外見しか見てなかったもん! マイが甘えた声出せば、一発でこっち向くの!」
 
顔を真っ赤に染めて、マイは叫んだ。

「その程度の気持ちでミヤちゃんに近づくなんて許せない!」

「だから、森崎さんにも近づいたのか」
 
冷たく言う桐谷さんをきっと睨みつけ、それから言葉を探すようにマイはうつむいた。

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