じゃあなんでキスしたんですか?
「や、やっぱり見たんじゃないですかぁぁ」
「いや、たまたまな、ちょっと視界に入っただけだって」
右手にマグカップを持ったまま、左の握りこぶしで彼を叩くと。
「こぼれるから」
すぐさま腕を取られてしまった。
微笑みを浮かべた余裕たっぷりの表情が、なんだか悔しい。
「森崎さんは、どうやって会社で無表情を保ってるんですか」
きょとんとした顔をして、頬を膨らませるわたしを見る。それから森崎さんは「うーん」と考えるように首筋を掻いた。
「感情を切り離してる、かな」
「感情を切り離す!? ど、どうやって……」
思いがけず明らかになった無表情のコツは、いまいち分かりづらい。わたしの戸惑いに気づかず、彼はなんでもないように言う。
「だから、仕事中は感情に蓋をするっていうか。意識して感情が働かないようにコントロールするんだよ」
「なんですかその高等テクニックは……」