じゃあなんでキスしたんですか?


「ベッドに……」
 
わたしの腰に手を回してささやく彼に、促されるまま立ち上がろうとしたとき、テーブルに置いたケータイがぶるぶると暴れだして、我に返った。

「あ、マイちゃん」
 
画面をタップして耳に当てると、聞き馴染んだ声が響く。

『ミヤちゃん、いつ帰ってくるのぉ』

「うん、いま帰るから」
 
あ、と思って振り返ると、森崎さんが笑顔のままわたしを見下ろしていた。薄い頬がどことなく引きつっている。

「す、すみません」 
 
ケータイを抑えて見上げると、彼は静かに首を振った。

「いや、いいよ。……そういう約束だしな」
 
そう言って、椅子にかけてあった黒いジャケットを羽織る。

「送ってく」 
 
聞き分けのいいおだやかな微笑が、なんだかとても大人で、わたしは何故かほんの少しだけ寂しい気持ちになった。




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