じゃあなんでキスしたんですか?
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唇が、なんだかこわばる。
慣れないモノを塗りたくっているせいで、どうも気になってしまう。
気が付くと上下の唇を意味もなくすり合わせたり舌で舐めたりしていて、あわててやめる、というのを朝から何度も繰り返していた。
デスクに積まれた書類に目を通しながら、マイの顔を思い出す。
朝からメイクアップアーティストばりの道具を駆使して、妹はわたしの顔にフルメイクを施した。ばさばさのまつげと、たれ目風に仕上げられたアイラインと、白い頬に人形みたいなピンクのチーク。
大学生が街に遊びに行くにはいいかもしれないそのメイクを、さすがに会社にしていくわけにはいかず、止めるマイを振り払ってわたしはいったん化粧を落としたのだ。
結局いつもとそんなに変わらない顔で家を出ようとしたわたしの唇に、マイはこれだけは譲れないとばかりにグロスを塗った。
「ちゃんと化粧直しするんだよ? グロスだけなんだから」