じゃあなんでキスしたんですか?
どっちが姉なのか分からなくなるような会話を経て、わたしは今朝、無事に出社した。
それでも、いつもと違うグロスと、普段よりほんの少し気を遣った服をまとっているだけで、気分が引き締まるのだから不思議だった。
「小野田」
歯切れのいい声に顔を上げる。正面のデスクから森崎さんがこちらに資料を差し出していて、あわてて手を伸ばす。
「過去十年間の売上げデータ。店舗ごとに入力頼む」
「あ、はい。承知しました」
わたしが答えると、森崎さんは表情を変えずに視線を外す。
背もたれにからだを預けモニターに視線を注ぐその徹底した無表情ぶりに、ほんの少し寂しさを抱きながら、表計算ソフトを立ち上げた。
今は仕事の鬼になる。
唇を噛みしめ、わたしはモニターと資料に集中した。