じゃあなんでキスしたんですか?
ルールは守るためにある。
それはちゃんとわかってるつもりだ。
会社では眉ひとつ動かさない森崎さんも、マンションに戻れば穏やかな笑みを見せてくれる。
それだけで、十分わたしは幸せなのだから。
合鍵を使って部屋に入ると、しんとした空気に迎えられる。窓の外の景色と時計の針だけが動く世界に、明かりを灯した。
相変わらず物の少ない部屋は、きれいだけれど、どことなく殺風景だ。いつでもどこでも落ち着いている部屋の主に、なんとなく重なる。
ふいに青い線が頭をよぎった。
すっかり青く塗りつぶされた、箇条書きの付箋。
ひとつひとつ書き出して、青く潰していく作業。
めったにあわてることのない大人な森崎さんと、いつも落ち着きのない恋愛初心者のわたしのあいだには、いったいどれくらいの隔たりがあるんだろう。
ソファにもたれかかって、何も映っていないテレビを見つめる。
ここでDVDを見ているときも、キッチンで並んで料理をしているときも、わたしは森崎さんに寄りかかってばかりな気がする。