じゃあなんでキスしたんですか?


「森……ん」 
 
言葉をはさむ間もない性急な動きに、されるがままになる。

「みやこ」 
 
名前を呼ばれるたびに、胸の奥がきゅっと反応する。
 
泣きたいような、しびれるような感覚に、成すすべもなく、広い腕に抱えられ、あっというまにベッドの上に転がされた。
 

濡れた目と、ネクタイを緩める仕草に鼓動が早まる。
 
眉間に寄ったかすかな皺と、私を呼ぶ熱い声。
 
そこには、大人の余裕なんて皆無だった。

「みやこ」
 
何度呼ばれても、胸がしびれる。
 
そしてわたしは、森崎さんの法則を見つけてしまった。

 

――小野田。
 
会社でも家でも、わたしを苗字で呼ぶ彼は、ある瞬間だけ、呼び方を変える。
 
森崎さんの余裕が失われたとき、つまり彼が『その気』になっているときだけ、わたしは「小野田」から「みやこ」になるのだ。
 
それは、甘い時間がはじまる合図でもある。

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