じゃあなんでキスしたんですか?
「プレスリリースの原稿な、これじゃダメだ」
「え、でも、前回からのシリーズ品なので、わかりやすく」
「でもじゃない。そもそも前回とはコンセプトが違うだろ。新商品を全然アピールできてないぞ。おまけにこのコピーはなんだ。まったく惹かれない」
「ですが」
申し開きをしようとする大橋さんを遮り「やり直しだ」と言って席に戻るように促す。
大橋さんはつやつやの唇を噛み締めて、悔しそうに席についた。
こういった場面にはたびたび遭遇する。サポート部の先輩からしたら、こういうところが森崎課長の厳しいところ、ということなのかもしれないけれど、わたしからすると課長は正しいことを言っているだけというような気もする。
ただ無表情にくわえて地を這うような低音でダメだしされるから、人によっては強く突き刺さるのかもしれない。
ふとメールボックスに新着メールが入っていることに気づき内容をチェックする。
CCに森崎課長の名前も入っているそのメールの送り主を見て、背筋が緊張した。
添付されていた五枚に渡るワードファイルをプリントアウトし、課長の席に向かう。
「森崎課長、今いいですか」
さっき大橋さんに厳しい言葉を吐いていた彼の顔は、いつもの無表情に戻っている。