じゃあなんでキスしたんですか?
「社長からメールでメッセージが届いてたんですが」
「ああ、俺のとこにも来てるな。印刷したのか?」
「はい、二部」
「じゃあ今やろう。会議室は――」
「使用中です」
フロアの奥のドアに目を向けて答える。会議室のプレートの下に、『使用中』と書かれた赤色が見える。
「じゃあそこの応接ソファでいいな」
わたしから用紙を受け取って席を立つ森崎課長のあとに続く。
広報課と経営企画課のあいだには、衝立で簡単に目隠しをされたちいさな応接セットが置いてある。
茶色いビニールレザーのシンプルな一人がけに座った課長と向き合って、腰を下ろした。
「四ヶ月ごとにこうやって社長が社員向けのメッセージを発信するんだ。社内報に載せる前に俺と小野田で読み合わせるから。文章に変なところがあったら遠慮なく言えよ」
”創造、ちから”と見出しのついた五枚に渡る社長からのメッセージは、会社の理念や、社長の経営ビジョンについてが好きなように書き連ねられている。
森崎さんが社長メッセージを音読していく。
読み進めるうちに幾度となく間違いは現れて、ふたりで“てにをは”を直したり、文章のわかりづらい部分の言い回しを変えていった。