じゃあなんでキスしたんですか?

 
滔々と繰り出される声は抑揚がなく、お経のようだけれど、凛然とした張りがあって、わたしの心臓はずっと落ち着かなかった。

それでも気を引き締めて、社長のメッセージを完璧なものに仕上げていく。おかしいな、と思う部分があれば遠慮なく指摘した。

「よし、じゃあこれで載せてくれ」

「はい。あ、あの」
 
ソファを立つ課長を呼び止める。そんな動作ひとつも流麗で、なんとなく見とれてしまう。

「どうした」

「あの……いえ、すみません、やっぱりなんでもないです」
 
ほんの少し眉を持ち上げると、森崎課長はデスクに戻っていった。
 
心臓が変な音階で鳴っている。
 
桐谷さんのセクハラ行為を訴えようかと思ったけれど、できなかった。

しつこいからもう一度だけ飲みに行ってもいいかなとも思うけれど、やっぱりふたりだけというのは気が引けるから、もう一度森崎課長がついてきてくれればいいな、なんて思ったりもしたのだ。
 
でもこれって、公私混同になるのかな。

サポート部の先輩は、森崎課長がひどく公私混同を嫌うと言っていた。

「公私混同って……なに?」
 
考えれば考えるほど、その境目はあいまいで、わたしにはよくわからなかった。
 

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