じゃあなんでキスしたんですか?


* * * *


昼に焼かれた空気は、夕方になると生ぬるい湿り気を帯びる。どこか落ち着く夏のにおいに混じって、人々の熱気が立ち込める。

「わあ、すごい! 屋台まであるんだぁ」
 
行列をつくっているフランクフルトの露店を見て、マイがはしゃいだ声を出した。

「想像以上に本格的なんだね、ミヤちゃん」
 
納涼祭の会場には各部署ごとに有志の模擬店が出店され、野外ステージまで設営されている。
社員だけでなくその家族の参加もあって、会場には子供の姿も多かった。
 
ハッピ姿の男性社員や浴衣姿の女性社員もちらほらいて、彩りを添えている。

「ミヤちゃんも着てくればよかったのにぃ」
 
白から黒へと染まっていく空を舞う、紫色の萩と蝶。
意外に落ち着いた色合いの浴衣をまとった妹は、ぽってりした唇を突き出して姉を見つめている。

「わたしはいいの。大事な仕事があるんだから」

「仕事?」
 
首にかけたストラップの先に指を伸ばし、わたしはパパラッチのように腰をかがめてポーズをとった。

「今日のわたしはカメラマンなんだから」
 
次号の社内報には納涼祭リポートをメインで載せることになっている。
 
模擬店で売り子をしている社員やその家族たちの楽しそうな笑顔を液晶画面に収めていくと、マイが浴衣の袖を揺らして嬉しそうに笑った。

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