じゃあなんでキスしたんですか?
半身で振り返り、彼はだるそうに首を回す。
「こういう集まりは、もともと苦手だし」
「じゃあな」と右手を揺らすと、桐谷さんはいつものオーラを隠すようにして敷地を出ていく。
薄く闇が降りはじめた会場のあちこちから子どもたちのはしゃいだ声が聞こえていた。
すぐそばに見える華やかな浴衣姿の初々しい面々は、長い研修から解き放たれた新人たちだ。
たしかに、こんなに会社関係の人間があふれている場所にいたら、腹黒エースは絶えず愛想を振りまかなきゃいけなくて疲れるに違いない。
「でも、だったらなんで来たんだろ……」
腑に落ちないまま彼が消えていった方向を見ていると、男性の声が会場内に響き渡った。
『みなさまお待たせしましたぁ! ブルースマート納涼祭の名物パフォーマンスの時間です』
鮮やかなブルーのハッピをまとったメガネの男性が、マイク片手にステージから場内を見渡している。
『今年も実行委員が一生懸命練習しました!』
沸き起こる拍手とともに、同じ衣装を身につけた十人前後の男女が一斉に登壇する。
わたしはとっさに自分の首にかかっているストラップの重みを思い出した。