じゃあなんでキスしたんですか?
「あのねー、ちょうどいま転びそうになったところを、この人が助けてくれたの」
森崎さんはマイの手を振り払うでもなく、口をぽかんと開けてわたしを見ていた。
「あ……妹を助けてくださってありがとうございます」
ちいさく頭を下げた。
触れ合ったふたりの腕が気になって、なんだか舌がうまく回らない。
と、ポロシャツに包まれた広い肩がゆっくり下がる。
「ああ、なんだ。妹……」
「はい! 妹のマイでーす」
マシュマロでつくったみたいなしゃべり方で、妹は森崎さんに極上の笑みを見せる。
桐谷さんには同じ声だと評されたけれど、妹のそれは、わたしのとはまったく異質のものに思えた。
どうすれば自分の声がこんなに甘くとろけるような響きになるのか、知りたい。
何かを期待するようなきらきらした視線に気づいて、わたしはあわてて妹を見つめ返す。
「あ、マイちゃん、こちらは森崎課長です。いつもすっごくお世話になってるの」
「そうなんだぁ。姉がいつもお世話になってます」
まだ頬にかすかな驚きの色を残し、森崎さんは妹を見下ろした。
「……似てるな」
「はい、よく言われますぅ」