じゃあなんでキスしたんですか?


「えへへ、わたしお父さん似で呑み助なんです」
 
ぽわんと両親の顔が思い浮かぶと、同時に血を分けた妹の姿が思い出された。
わたしはとっさに森崎さんを振り返った。

「あの、今日は妹が……その、大変失礼しました」
 
一瞬の間のあと、森崎さんは「ああ」と思い出したように言う。

「別に気にしてない。というか、あんまり似てるんで驚いた」

「わたしも、さっき浴衣着てたでしょって何度か言われましたよ」
 
森崎さんがくれた水を飲みながら、「そんなに似てますかねぇ」とどことなく自嘲気味に笑った。
 
わたしとマイはちいさな頃から仲のいい姉妹だ。
 
いつだって一緒で、わたしの後ろを追いかけてくる妹を友達も可愛がって仲間にいれてくれたし、中学生になってわたしが寮に入ると、妹はとても寂しがって週末には毎週のように帰宅要請をしてきた。
 
マイが高校生になると親に内緒で学校をサボりわたしの大学にもぐりこんだり、大学生になれば何日間かにわたって寮の部屋に泊まったりもした。

『似てるね』と言われることは、わたしたちにとっては褒め言葉で、仲のいい証のようなもので、喜ばしくはあっても、うとましく感じることなんてなかった。
 
それなのに、いま森崎課長に似ていると言われて、気持ちが塞いでる。

< 89 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop