じゃあなんでキスしたんですか?
「たしかに、浴衣で転びそうになってるのを見たときは俺も小野田だと思ったよ。で、振り向いたらもうひとりいるから、本当に驚いた」
変化に乏しい薄い頬が、わずかに上がる。ごつごつと大きな手の中で、グラスが汗をかいている。胡桃色の液体がすこし厚めの唇をつたい、骨の浮いた喉を上下させる。
「けど、ちゃんと見れば違ったよ。まあ別の人間だから当たり前か」
「え……?」
わたしの目線を受け止めて、課長はこともなげに言った。
「雰囲気も、喋り口調も、笑い方も、全然違うしな」
絡んだ視線に、鼓動が速くなる。
森崎さんの黒い瞳に、やわらかな光が映って見える。
「彼女は妹で、小野田は姉ちゃん、て感じがしたよ、やっぱり」
そこまで言うと、森崎さんは「ちょっと」と言って席を立った。お手洗いにでも行くのか、しっかりとした足取りでお店のサンダルを履き、廊下を折れる。
じわりと涙が湧くみたいに、胸にあたたかいものがこみ上げた。
いまさらアルコールが回ったのか、からだがふわふわと軽い。
「ぜんぜん、ちがう……」
彼の言葉を繰り返すと、意味もなく手足をばたつかせたくなる。
どうしてだろう。……すごく嬉しい。
「やべー飲みすぎらぁ」
座敷の真ん中あたりで飲んでいた男性が、ふらりと立ち上がった。
おぼつかない足取りでこちらに歩いてくる。