じゃあなんでキスしたんですか?
「おいー大丈夫かぁ」
社員たちの笑い声に背中を押されて、よたよたと靴が並んでいるほうへ近づいていったと思ったら、
「おっとっとと」
大きくよろけて、すぐ近くに倒れ込んできた。
「あ、あぶなっ」
手を差し伸べる暇もなく、すぐ近くで陶器の擦れ合う嫌な音が響く。
「ちょ、おま、大丈夫かよ。小野田さん、へいきー?」
「あ、はい。わたしは全然」
ステージ上でマイクを握っていたメガネの男性が声をかけてくれる。
比較的酔っていないらしい彼は、倒れた同僚を引っ張り起こした。
酔っぱらいの男性はうまい具合に座布団のうえに倒れたものの、右手が森崎さんのドリンクをなぎ倒してテーブルに水たまりを作っている。
「えへー、ごめんねぇ」
呂律も怪しい彼は、メガネの男性に支えられて段差を降り、サンダル履きで廊下をふらふらと進んでいく。
「よかった。なにも割れてない」
手近にあったおしぼりをつかって被害を最小限にとどめ、わたしは店員に声をかけた。
横倒しになっている空のグラスを持ち上げて、ふと思う。
森崎さんが頼んでいるのは、いつも同じ、胡桃色の飲み物だ。
「すみません、ウーロンハイひとつお願いします」
店員から新しい飲み物とおしぼりをもらい、汚れたテーブルを片付けて、森崎さんが戻ってくるころには酔っ払いの醜態をきれいさっぱり消し去った。