好きになっちゃダメなのに。
……ごめんなさい勉強なんてこれっぽっちもしてないです、なんて言えるわけない。
中間と期末以外の小テストが少ない社会系の勉強は、数学や英語に比べてほとんどしない。
それこそ、テスト前に一夜漬けと言われても仕方ないくらいの時間で、テストに出そうな知識をとりあえず詰め込むだけ。
しかも、テストが終わったらきれいさっぱり忘れている。
選挙が終わったらすぐに期末テストの時期だということも、忘れていたわけじゃない。
だけど、選挙の準備で忙しく、正直それどころじゃなかった。
「せっかく昨日いいところを見せたんだから、勉強の方ももう少し頑張れよ。お前、いつも平均ギリギリだろ」
ガラッ、と職員室のドアを開けながら高橋先生がそう言う。
……昨日いいところを見せたんだから?
まさか先生にそんなことを言われるとは思わなくて、ぽかんとしてしまう。
そんな私のことはお構いなしに、高橋先生はドアのすぐ近くにある自分のデスクに、先生が半分持っていたノートを置き、抱えていた例の大きい世界地図を立てかけると、私が持っていたノートを受け取る。
「分からないところはそのままにしないでちゃんと聞きにこい。それにお前、速水と仲良いんだろ?勉強くらい見てもらえ」
デスクに置いてあったマグカップを手にしながらそう言った高橋先生に「はい」と返事をして、私は職員室を出た。
……高橋先生に褒められるような言葉をかけてもらったのなんて、初めて。
昨日の私、羽依ちゃんにも褒めてもらえたし……、ちゃんと頑張れたんだね。