㈱恋人屋 TWICE！
「…見たんですか？」
「見たよ。…それにしても、わざわざ自殺の予告をする人がいたとはね…。今になっても信じられんよ。」
「えっ…？」

自殺の予告…？

「『私が死んだらそこの交差点に花を供えて下さい』って、言いに来たんだよ。どういう意味かって聞き返そうとしたけど、黙って道路の方へ歩いて行って…。」

不自然なほどに、状況がありありと想起される。

「赤信号になったのに横断歩道の真ん中に棒立ちになって、そこから動かなかったんだよ。危ないから私も行こうとしたんだけど、その時トラックがその子をはねて行ってね…。」

龍馬さんと顔を見合わせる。数秒後、お互いに首を横に振った。

「で、でも、警察の方は事故だって…。」
「その辺のことはよく分からないからねぇ…。私も一通り、見たまんまの話をしたんだけど…。」

もしそれが本当なら、警察が事故として処理するわけがない。

だけど、龍馬さんにはそれが事故として報告されている。

「…まさか、あの時から…。」

一つの非常に嫌な仮説が、私の脳を横切った。

「どうしたんですか？」
「…もしかしたら…あの人が一枚噛んでいるかもしれません…。」
「あの人って？」

名前を口にするのもためらうほど、私の心には憎悪が溜まっていた。

「恋人屋社長、鯉ヶ島匠です。」
< 112 / 130 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop