僕の幸せは、星をめぐるように。
「あれ? トシミー?」
先に改札を通った阿部くんが、ちらりとわたしを振り返る。
「……っ!」
急に心臓が震え、喉から水分が消えた。
イマドキの綺麗な女性が、
ローカルなわたしの町のことを知っている、ということに驚きを覚えたのは一瞬だけ。
わたしは嫌な予感がした。
じわじわと胸の奥に灰色の雲がかかっていくよう。
彼の視界にこの女性の姿を入れたくない。
それは、わたしみたいなガキ臭い女子と、その美人な女性とを比較して欲しくないから、
ではなく、
『先生は実家の群馬で、塾の先生をしているらしい』
直感だけど、もしかして――と思ったからだ。
「じゃ、時間なんで、わたし行きますね!」
わたしはそう言って、その女性に軽く会釈をした後、改札を通り抜け、彼の元に向かった。
「…………」
その女性は、わたしを呼ぶ声の方向に、一瞬だけ視線を移した気がした。
――そんなわけないよね。
だってここ関東だし、都会だし、人いっぱいいるとこだし。
頭の中でそう唱えながら、彼のもとに走った。
「せーちゃん待ってー!」
切符をポケットに入れ、急いで彼の手にわたしは指を絡めた。
そして、彼が後ろを振り向かないように、思いっきり肩を寄せた。
「2回目はさ、せーちゃんの部屋でしたいな~」
急に手を繋いでくっついてきたことと、えっちな話題を振ってきたことに驚いたのか、
阿部くんは後ろを見ることなく、わたしの顔を見る。
「さっきからねー、昼間っからそういう話はしないの!」
「すみませーん」
「ま、割と歓迎ですけどね」
「もう!」
良かった。
気がつかなかったようだ。
歩き出してから、わたしはこっそり改札の方向を振り返った。
そこには、
改札を出る人と入る人が次々と行き交う景色の中。
1人だけその波に流されることなく、立ち止まってわたしたち――いや、阿部くんの後姿を見つめる、
さっきの女性の姿が見えた。
その表情には何の色もない。
わたしは、何て嫌な子なんだろう。