僕の幸せは、星をめぐるように。


後片付けはわたしたち2人でやることにして、おばあさんには早めに休んでもらった。


流し台には、重ねられた食器と鍋たち。

わたしがスポンジで洗う係で、阿部くんが布巾で拭く係。


「ねえ」


「ん?」


「今日泊まっていきたいな」


「ね、そうして欲しいんだけどね。もうすぐお父さん迎えに来るんでしょ?」


「でも……」


「また休みの日とかにゆっくり遊びにおいで」


「…………」


「トシミのお父さん、ちょっと怖いし」


「あはは」


阿部くんとの残り少ない日々。


少しでも長く一緒にいたいんだけど、

そう思っているのはわたしだけなんだろうか。


水が流れる音と、布と皿がこすれる音だけが台所に響いている。


「あっ!」


ぼーっと作業をしていたら、手にしていたガラスのコップを手から滑らせてしまった。

それは、アルミ製の流し台の底に衝突し、鈍い高音とともに大小様々な亀裂を刻んだ。


そこに手を伸ばした瞬間――

「あ、触っちゃだめ! 大丈夫?」

と阿部くんは言い、急いでわたしの手を掴み、流し台から遠ざけた。


「ごめんね! 割っちゃった……。わたし何やってるんだろう」


「いいよ。それよりも手、何もない?」


「うん」


「良かった」


人さまのコップを割ってしまい、さーっと血の気が引いているわたしに対して、

阿部くんは目を和らげ、安心したような表情を浮かべていた。


「……せーちゃん」


「ん?」


「ごめんね」


「どうしたの? 全然いいよ」


「ごめんなさい……」


彼の優しい顔を見ていたら、いろんなものが心の中に込み上げてしまう。


下を向いて、何も言えなくなるわたし。


阿部くんは手を拭いて、わたしの肩を優しく叩いた。

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