僕の幸せは、星をめぐるように。
――もちろん遠距離になることは辛い。
でもそれ以上に、先月、先生の姿を見てからわたしは阿部くんといてもどこか心にもやがかかった気持ちでいた。
そのもやは、日を追うごとにだんだんと広がっていき、
阿部くんが地元に帰ることが分かったとたん、次第に黒い色を帯びてきたように感じた。
流し台に水が流れる音だけが響いている。
いっそ割れてしまったガラスで血を出して、この水で全部洗い流してしまいたい。
ふとした時に、何度も映像が浮かんでくるのだ。
人が出入りする改札の奥、一人だけ時間が止まったように立ち止まっていた姿。
『阿部くん!』と新幹線の窓越しに彼に向って叫んでいた姿。
先生はどんな気持ちで阿部くんを追いかけたのだろう。
わたしは阿部くんと一緒にいたい。
遠距離になっても恋人の関係でいたい。
でも、阿部くんはあの時、どんな気持ちで先生を見ていたのかが、分からないのだ。
だって彼はあれからも全く変わらない様子で、わたしと接してくれている。
いつ彼の心が先生のもとへ戻ってしまうのか、怖くてたまらない。
阿部くんは、新聞紙を片手に、割れたグラスを冷静に片付け始めていた。
わたしは何も言葉を発することができず、その様子をぼーっと眺めることしかできなかった。