キスはワインセラーに隠れて


「……いい声で鳴くなとは思った。でも、もともと見た目も中性的だし、そういう声出る男もいんのかと思って、特に気に留めなかった」

「じ、じゃあもしかして、さっきの“慣れてない”発言って……」

「……“男相手が”って意味だ」


お、男相手……?

そこで、私たちの会話は一旦止まった。

お互いに何とも言えない表情で見つめ合い、それから私が先に、こらえきれなくなって笑い出した。


「ふ……藤原さんて、ニブイ……っ!」


鼻は人一倍いいクセに、なんでわからないかな。

いつの間に乾いていたはずの涙が、違う理由で再び目の端に滲んでくる。


「……おい、笑いすぎだ。つーかお前、俺の苦悩の日々を返せ」

「苦悩……してたんですね。お、男にキスしちゃったって……」


あぁもう、お腹よじれそう。

あの藤原さんが。あんなに俺様発言かましてた藤原さんが。ツーブロックの頭抱えて悩んでいたのかと思うと面白くて……

震えるお腹を抱えて、私がいつまでもくすくす笑っていると。



「……キス、だけじゃない」



そんな言葉が降ってきて、私の笑いがぴたりと止まる。

顔を上げると、おでこにかかる前髪をかき上げ、こちらを真っ直ぐに見つめた藤原さんと目が合う。


「その前から……山梨行って、帰ってきた辺りから、お前のことそういう対象として見てる自分がいて……すげぇ、悩んだんだ。相手は男なのにって」



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