キスはワインセラーに隠れて
部屋の大部分を占めるシングルベッドと、パソコンの乗ったデスク、小さなローテーブル。
そして須賀さんが見たら嫌味を言いそうな小さいキッチンがある他は大した家具のない狭いワンルームを、藤原さんは興味深そうに眺めていた。
「女子の匂いがする」
「……当たり前じゃないですか」
やかんのお湯で入れたインスタントコーヒーを二つテーブルに置いて、私はむすっと答える。
相変わらず匂いで何でも判断するんだから、この人は……
「――で? 結局何があったんだ?」
カーペットを敷いた床に、長い脚を折り曲げて胡坐をかいた藤原さん。
私は自分のコーヒーに角砂糖をふたつ入れて、くるくるとスプーンでかき混ぜながらぽつぽつと話し出した。
あの夜、本田に迫られたこと。
そのことがきっかけで、私の身の安全を心配したオーナーが、私にお店を辞めるよう促したこと……
藤原さんはときどきブラックのコーヒーに口をつけつつ、私の話に黙って耳を傾けていた。
……この話を聞いて、彼はどう思うのかな。
オーナーの言う通り、女子があのお店で遅くまで働くのは危ないことだから、諦めた方がいいのかな。
「……まあ、あのオッサンの考えも、俺はわからないでもないけどな」
しばらくして、急に口を開いた藤原さん。
おっさん……ていうのは、たぶん、オーナーのこと……かな。
「香澄さんのこと、お前どこまで知ってんの?」
「香澄さんのこと……?」