キスはワインセラーに隠れて


どこまで、と言われても。

昔ストーカー被害に遭って、それをオーナーが助けたことがきっかけで、二人は結婚して……っていうくらいの情報しかない。

きょとんとする私に、藤原さんが言う。


「その様子じゃ知らないみたいだから言うけど、香澄さんをストーカーしてたヤツってのが、かなり粘着質でな」

「粘着質……?」


……なんだか、背筋に寒気が走る響きだ。


「郵便物勝手に開けたり、ゴミ漁ったり、後つけたり無言電話かけたり……しまいにはソイツが仕掛けたらしい盗聴器も見つかってな」

「まさか、そんなことまで……」

「気味悪いだろ? しかもそれが半年間、ずっとだ」


そんなことをされたら、毎日気が休まる暇がない。ノイローゼになりそうだ。

香澄さん、そんなひどい嫌がらせ受けてたんだ……


「それで精神的に相当参ってた香澄さんを、オーナーはずっと側で見てたからな。普通の人よりちょっと心配症でも仕方ないだろ」

「そう……ですね」


オーナーは、別に意地悪で私を追い出したいわけじゃない。

誰より心配してくれてるからこそ、辞めろって言ってるんだ。

……でも。

ここまで心苦しくなるのなら、あのお店と、あそこで働くみんなのこと、こんなに好きになるんじゃなかったな……


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