キスはワインセラーに隠れて
「……お前、やっぱり俺に気があるんだろ」
「ちち、違います! ただどんな本読んでるのかなって……」
いい加減、その疑惑で私をからかうのやめてください……
藤原さんはため息をつき、持っている本で軽く私の頭を叩いてから言う。
「会計してくるから外で待ってろ」
「……? は、はい」
なんで、待つ必要があるんだろ。そしてその本……やっぱ買うんだ。
自転車の停めてある歩道で藤原さんを待つこと数分。
本の入った紙袋を手に店から出てきた藤原さんは、私の自転車のかごにそれを勝手に放り込むと、通りの向こう側にあるカフェを指さして言った。
「あそこでコーヒー一杯おごる。それが口止め料」
「え……そんなことしてもらわなくても、誰にも言いませんけど」
「俺がお前とコーヒー飲みたい気分なんだよ」
じゃあ、口止め料じゃないじゃん……ま、いいか。少しのど乾いてたし。
先をスタスタ歩いて行ってしまう藤原さんの背中を、自転車を押しながら着いて行く。
その途中、たまたま彼とすれ違った女子大生風の二人組が、目をハートの形にしてキャッキャとはしゃいでいた。
……まあ、確かに、容姿だけ見ればね。なんて思いながら、私も彼の後姿を眺める。
細身のジーンズに、黒いレザーのジャケット。中はたしか、シンプルな白のTシャツ。
それだけでサマになってるんだもんなぁ……ますますあの本を買う理由がわからない。
私は首を傾げつつ彼の後を追い、目的のカフェに向かって足を進めた。