キスはワインセラーに隠れて
「そ……そうですよ! 藤原さんならそんな本なくたって大丈夫です!」
「……お前に太鼓判押されても嬉しくないけどな」
上から大きな手を私の頭に置いた藤原さんが、その手で私の髪をわしゃわしゃと散らす。
「ちょっと! やめてください!」
「そっちの方が男前だぞ」
「嘘ばっかり!」
「……ふ。じゃーな、俺は本屋に寄ったらそのまま帰る」
藤原さんはそう言うと、本の入った袋を手の代わりにしてばいばいの仕草をし、お店から出て行ってしまった。
ふぅ……やっとあの人から解放された。
乱された髪を手櫛で整え、あとひと口分残っていたコーヒーを飲み干す。
それにしても、あれ、返しに行くのも相当恥ずかしいものがあると思うけどな。
藤原さんがレジであの袋を開ける姿を想像すると、思わず笑みがこぼれる。
今までとっつきにくい人だと思ってたけど、意外とそうでもないみたい。
この調子なら、もう一週間後に迫った例の山梨に一泊する件もどうにかなるかもしれない。
「……よし。がんばろ!」
膝を叩いて立ち上がり、自分のカップと俺様ソムリエの置いていったカップ(自分で片づけるわけないと思ったよ)を店内の返却スペースに返すと、私も自宅に帰るべく、カフェを後にした。