キスはワインセラーに隠れて


「……それはできない。もう職業病なんだよ。簡単に直せるならとっくに直してる」

「そっか……でも、藤原さんを振った女の人たちも、よくわかんないですね」

「なにがだ?」


恋愛経験の少ない私でも、そりゃ誰かを好きになったことくらいはあるわけで。

そういう時の自分の心境から考えると、そんなささいな理由で恋人と別れるなんて、ちょっと理解できない。



「だって……そういう、ワインに熱くなっちゃうトコも含めて“藤原さん”なわけじゃないですか。
藤原さんのことが本気で好きなら、ウザいだなんて思わず一緒に楽しめるはずです」



私の言葉に一瞬目を見開いた藤原さんは、それから逆に目を細めたと思ったら、嫌味っぽくこう言った。


「つまり……俺は今まで一度も、女に本気で愛されたことがない、と。お前はそう言いたいんだな?」

「べ、別にそういうつもりじゃ……!」

「でも、そう言ってるも同然だったぞ、今のお前の持論」


ああ、余計なことを言ってしまった……

言い返そうにも言い返せないのは、藤原さんの言っていることが正しいからだ。

私ってばなんて失礼なことを……!


「……この本、返してくる」


頭を抱える勢いで自分の発言を後悔していると、カサリと紙袋の音がして、それを手に急に立ち上がった藤原さんの口から、そんな言葉がこぼれる。


「お前の言う通りだ。こんなの読んで付け焼刃的に知識増やしたって、きっとまた同じことの繰り返しになるに決まってる。
それよりも、いい女見極める目の方を養ったほうがよさそうだ」


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