恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「それに、その布団は片付けなくても。今晩は和彦とこの部屋で寝てもらうから」
「…あ、そうなんですか…」
晶はそう言ってくれたけれど、本当に古庄がここに来る確証はない。
もしかして、勝手なことをしたと腹を立てて、迎えになど来てくれないかもしれない。
「和彦さん…。来ないかもしれません…」
そんな真琴の弱気な声を聞いて、ソファーに座っていた晶は、読んでいた農業新聞から目を上げた。
「和彦には黙ってここに来たんだって?どうせ、アイツがここに来たがらなかったんだろう?」
布団を部屋の隅に寄せて、座敷の真中でたたずんでいた真琴は、晶が言ったことが図星だったことに、目を合わせて肯定した。
「まあ、アイツがいなかったらいなかったで、楽しめることもある。…そうだ。こっちに来てごらん」
晶は立ち上がって、ニヤリと笑った。
縁伝いに移動すると、障子を開けて中へと入る。
薄暗い部屋の照明が点けられると、そこは他の部屋とは趣が違い、カバーのかけられたベッドがあり、本棚が並んでいた。
「高校生の時まで、和彦が使っていた部屋だよ。机はもう処分してしまったけどね。…さて、どこだったかな…?」
と、晶が本棚の前に行って、何か探し物をしている間、真琴は部屋の中を見回した。
余計なものはほとんどなく、何度か訪れたことのある古庄のアパートと、あまり雰囲気は変わらない。
それでも、毎日真琴が接する高校生の多感さを知っているからこそ、その時代の古庄に思いを馳せて、真琴の胸はドキドキと鼓動を打ち始める。