恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「……そいつ、いつか会ったら、殺してやる…!」
沈黙を破って、憮然とした様子で古庄が言い放つ。
真琴は驚いたように古庄を凝視した。
そして、プッと吹き出すと面白そうに笑い始める。
「そんな、ずいぶん前のことなんですよ?会うこともありません。今は遠い所にいるはずですから」
真琴の言うように、こだわることではないのかもしれないが、たとえ過去のことだろうと、他の男が真琴に触れたと思うだけで、古庄は自分の方が死んでしまいそうな気分になった。
「それに、私は何人殺さなくちゃいけなくなるんでしょうね」
真琴の言ったとは思えない激しい言葉に、古庄は眉根を寄せて真琴に視線をよこした。
真琴はしたり顔で、微笑み返す。
「古庄先生が過去に付き合って、そういうことした女性って、一人じゃないと思うんですけど」
この指摘に、古庄はグッと言葉を詰まらせた。
確かに一人ではない。
というより、何人と付き合ったかなんて、自分でも覚えていない。
今よりもモテていた20代の頃、その前半くらいまでは、若さにまかせ欲求の赴くままに、誘われれば応じていたような時もあった。
女性の方から想いを寄せられても、自分は女性を心から好きになれず…。
そんな気持ちで体を重ねても虚しいことに気付いたのは、いつの頃だっただろう。
「…まあ、君が手を下さなくとも、俺の記憶の中では、すでに生きていない」
真琴はそれを聞いて、また面白そうに笑った。古庄も息を抜いて、笑顔になる。
こんな真琴の幸せそうな顔を見られるだけで、古庄の心は満たされていく。
満ちて溢れた想いは行き場を求めて、古庄は運転をしながら、空いている左手で真琴の右手を取った。
真琴は、自分の右手に視線を落としてから古庄を見つめて、笑顔をいっそう輝かせる。